1争点(1)ア(被控訴人と旧ハッピークレジットとの間の取引経過)について
(1)被控訴人は,被控訴人と旧ハッピークレジットとの間の取引経過は,別紙1における平成6年11月30日から平成12年4月24日の該当欄に記載のとおりであると主張する。
まず,被控訴人は,この点に関し,原審において擬制自白が成立しておりその撤回は認められないと主張している。
しかし,擬制自白の効果が確定的に生じるのは事実審の最終口頭弁論終結時であり,それ以前であれば当事者はいつでも争うことができるから,第1審において擬制自白が成立した事実についても,当事者が控訴審で争えば,控訴審における擬制自白は成立しないというべきである。
擬制自白には,裁判上の自白と異なり当事者を拘束する力はなく,撤回という問題は生じない。
これと異なる被控訴人の主張は採用できない。
(2)以上を前提に,被控訴人と旧ハッピークレジットとの間の取引経過について検討するに,甲5及び弁論の全趣旨によると,被控訴人が主張する別紙1の取引経過は,平成16年11月18日付けで控訴人から開示された平成6年11月30日以降の取引分について,その当初残高をゼロにして作成されたものと認められるから,その内容が被控訴人と旧ハッピークレジットとの
全取引経過を正確に反映しているとは認め難い。
一方,控訴人は,被控訴人と旧ハッピークレジットとの間の取引経過は別紙2のとおりであると主張して元利金計算書を提出する。
なお,別紙2記載の過払い金返還債務の額は,悪意の受益者としての利息を付さずに算出されたものである。
そして,控訴人は,顧客との取引履歴を業として管理しているのであるし後記のとおり成立の認められる被控訴人の「会員カード」(証拠略)には,被控訴人と旧ハッピークレジットの初回取引が平成3年3月13日に開始され,同日20万円の与信,平成4年9月18日に15万円の与信,平成5年8月21日に20万円の与信,平成6年7月22日に30万円の与信が決定された旨記載されていて,乙13の内容はこれと符合しているから正当なものと評価できる。
なお,平成4年9月になされた15万円の貸付けについては,元利金計算書では同月21日の欄に記載されているが,これは,同月18日に与信決定されたものが同月21日実際に貸し付けられたものと考えられる。
したがって,被控訴人と旧ハッピークレジットの取引経過は元利金計算書のとおりであったと認められ,平成12年6月1日の本件営業譲渡の時点において既に約27万円の過払い金返還債務が発生していたといえる。
(3)これに対し,被控訴人は,元利金計算書の内容が真実であるなら過払い金返還債務の額が減るから控訴人は原審で開示したはずであるし,会員カードの作成者や作成経緯は明らかではないとして,元利金計算書の内容は信用できないなどと主張する。
しかし,控訴人はそもそも旧ハッピークレジットの過払い金返還債務を承継しない旨主張しているのであるから,過払い金返還債務を承継するものとして額を比較している被控訴人の主張はその前提を欠く。
また,乙24はその方式及び趣旨から旧ハッピークレジットの社員が顧客管理のために作成したもので,その成立が認められるから,被控訴人の上記主張は採用できない。
(4)一方,被控訴人は,前記第2の2(6)のとおり,旧ハッピークレジットの営業譲渡に伴い,貸主たる地位を譲り受けた控訴人に対し,平成12年6月6日から平成15年11月28日までの約3年半の間,別紙1「弁済額」欄記載のとおり,17回にわたり返済のみを繰り返している。
そして,別紙1の上記部分と別紙2の取引経過をあわせると,別紙3となるので,被控訴人と旧ハッピークレジット及び控訴人との間の本件営業譲渡の前後を通じての一連の取引経過は,別紙3の「貸付額」及び「弁済額」のとおりであると認められる。
2 争点(1)イ(控訴人による過払い金返還債務の承継の有無)について
(1)被控訴人は,本件営業譲渡において,譲受人である控訴人が,譲渡人である旧ハッピークレジットの商号を続用しているから,商法26条1項に基づき,旧ハッピークレジットの営業により生じた被控訴人に対する過払い金返還債務を承継したと推定されると主張し,これに対し,控訴人は,本件営業譲渡の時点で旧ハッピークレジットが被控訴人に対して負っていた過払い金返還債務については承継しない旨の合意が成立しているから,上記債務を承継しないと主張する。そこで検討するに,営業譲渡がなされた場合には,営業譲渡契約に別段の定めがなければ,営業に属する一切の積極及び消極財産が,当事者間において移転の対象とされているものと解される。
もっとも,本件営業譲渡契約書(証拠略)によれば,本件営業譲渡契約では,旧ハッピークレジットの負債につき,[1]控訴人は,基準日現在の残高相当額で,本契約別表1の譲渡資産・負債目録に記載する旧ハッピークレジットの顧客預り金及び顧客前受収益に関する債務を引き継いだ金額を限度として,免責的に引き受けること(第2条2.2(1)),[2]控訴人は,本第2.2条(1)に掲げる負債を除き旧ハッピークレジットの債務につき,一切引き受けないこと(第2条2.2(2))が合意されている。
そして,旧ハッピークレジット(代表取締役B)と控訴人(代表取締役A)間の平成12年7月26日付「預り金及び前払利息に関する覚書」(証拠略)によると,同条項によって控訴人が引き受けることとされた「顧客預り金」及び「顧客前受収益」は全店舗分で149万6951円にすぎないので,これらの金員に,顧客との間で生じている過払い金返還債務は含まれていないものと推認できる。
また,旧ハッピークレジットが消費者金融業者として利息制限法所定の制限利率を超える約定利息・遅延損害金のもとで貸金業の営業を行っていた者である以上,その営業を譲り受ける控訴人としても,旧ハッピークレジットの負債として相当額の過払い金返還債務が存在していることは当然に予測していたと考えられ,本件営業譲渡契約もそれを前提に締結されているとみるのが相当である。
以上によると,本件営業譲渡契約書の上記第2条2.2(2)の条項は,商号続用の場合に譲渡人の営業に因り生じた債務について営業の譲受人もまたその弁済の責めに任ずる旨を規定した商法26条1項を前提とした上で,過払い金返還債務を含む旧ハッピークレジットの債務について,営業譲渡の当事者間では,控訴人が引き受けないことを合意した約定であると解される。
したがって,本件営業譲渡契約において,控訴人と旧ハッピークレジットとの間では,旧ハッピークレジットの過払い金返還債務を控訴人が承継しない旨の合意があり,営業譲渡の授受当事者間で,過払い金返還債務は移転の対象にされなかったものと認められる。
(2)これに対し,被控訴人は,過払い金返還債務は貸付債権と不可分一体であるから,貸主たる地位を譲り受けておきながら過払い金返還債務のみを引き受けないとすることはできない旨主張する。
しかし,金銭消費貸借契約に基づく借入金の返済により発生する過払い金返還債務は,同契約の効果として発生するものではなく,同契約の存在を前提とするものの,これとは別個独立に法定の要件を満たすことにより発生するものであるから,貸付債権と不可分一体のものとは考えられない。
したがって,営業譲渡の授受当事者間において貸付債権の貸主たる地位を譲り受ける一方で,当時存在していた過払い金返還債務について引き受けないとする合意ができないとは解されないから,被控訴人の上記主張は採用できない。
また,被控訴人は本件営業譲渡契約書における第3条3.2(2)<6>などの規定からすれば,控訴人が過払い金返還債務を承継することが当然の前提とされたものと合理的に解釈されると主張する。
しかし,本件営業譲渡契約書(証拠略)によれば,同規定は,譲渡対価等の支払につき最終支払額の算出方法を定めた規定であり,「基準日後二ヶ月以内に,本営業無担保貸付債権の口座内容が変化し,下記のいずれかに該当すると甲が認識したときは当該債権の元金残高相当額(本第3.2条(2)<6>については,控訴人の返還にかかる額も追加的に含めるものとする。)を控除する。」とし,下記として「<1>介入口座,<2>詐欺口座,<3>死亡口座,<4>逮捕口座,<5>逃亡口座,<6>過払返還請求を受けた債権,<7>その他債権回収に困難をきたすものとして,控訴人が合理的に判断する上記<1>乃至<7>に準ずる債権。」を挙げていることが認められる。
そうすると,同規定は,基準日後一定の期間において譲受対象債権のうち債権回収が困難と認められたものにつき,営業譲渡価格に反映させるために置かれたものと解されるから,これだけをもって過払い金返還債務を承継することが当然の前提とされていたと解釈することは困難である。
その他,過払い金返還債務を承継している根拠として被控訴人が主張している諸点は,いずれも過払い金返還債務を承継するか否かと直接には関係がないといわざるを得ず,いずれも採用できない。
3 争点(1)ウ(控訴人は,旧ハッピークレジットの過払い金返還債務を本件免責
登記により承継しないとして被控訴人に対抗できるか)について(1)四日市駅前店の商法10条の支店の該当性,及び本件免責登記の効力ア前記第2の2(5)のとおり,控訴人は旧ハッピークレジットの商号を続用しているため,本件営業譲渡契約によって営業譲渡の授受当事者間において過払い金返還債務を承継しない旨の合意があったとしても,それを被控訴人に対抗できず,商法26条1項により支払義務を負うかが問題となる。
この点,控訴人は,商法26条2項に基づき,本件免責登記を営業譲渡後遅滞なく行っているとして免責される旨主張するが,被控訴人は,被控訴人と取引のあった控訴人の四日市駅前店は支店としての実質を有し,同支店での免責登記がなされていない以上,商法10条,12条,13条により本件免責登記によって免責されることはない旨主張する。
そこで,四日市駅前店に支店としての実質があるかについて検討する。
イ被控訴人は,四日市駅前店が支店である事実についても擬制自白の成立を主張しているが,擬制自白に拘束力がないことは前記のとおりである。
ところで,第2の2(3)のとおり,旧ハッピークレジットが作成した金銭消費貸借包括契約証書(証拠略)では四日市駅前店は「四日市支店」と表記されているし,本件営業譲渡に当たり控訴人が旧ハッピークレジットとの間で締結した平成12年7月26日付「預り金及び前払利息に関する覚書」(証拠略)には「四日市支店」との記載があることからすると,旧ハッピークレジットでは,四日市駅前店は「四日市支店」と呼称されていたものと推認できる。
しかし,証拠(略)によれば,四日市駅前店は,本件営業譲渡の後,控訴人の組織上は他の店舗とともに営業2課に所属する扱いとなっており,店長を含め従業員は5名であること,物的設備としては店頭窓口・自動契約受付機・ATMがあること,貸付けに関しては,本社の貸付基準に基づいて最大50万円までしかすることができず,同額以上の貸付けについては本社営業部の決裁が必要とされていること,日常の文房具等のごく少額の経費の支払は独自にするものの,従業員の給料の支払はもとより,家賃や水道光熱費等その他の経費の支払はすべて本社で行っていること,月に1度は営業2課の課長が貸付内容や運営のチェックに訪れるほか日常的に指示を受けていることが認められる。
これらの事実によると,控訴人の四日市駅前店は,店頭窓口・自動契約受付機・ATMを備えただけの単なる店舗であるというべきであり,商法10条にいう支店としての実質を備えているとは認められない。
ウ以上によると,控訴人の四日市駅前店は商法10条にいう支店に該当しないから,同店における免責登記がないからといって,本件免責登記の効力を否定することはできない。
(2)本件免責登記による免責の主張は信義則に反し許されないか。
ア次に,被控訴人は,控訴人が本件免責登記によって免責の主張をすることは信義則に反し許されないと主張するので,この点につき検討する。
イ前提となる事実に,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,本件営業譲渡に関して次の事実が認められる。
(ア)旧ハッピークレジットは,平成11年5月にその主力銀行でありグループ会社であった幸福銀行が経営破綻し,金融再生委員会により管理命令が発せられるとの事態を受けて,信用悪化と資金供給の枯渇が生じ,早晩事業継続が著しく困難になることが必至の状況となった。
そのため,旧ハッピークレジットの有する営業貸付債権が劣化する前に他の事業者に譲渡して引当資産を保全するとともに,顧客の混乱を回避し,従業員を譲渡先に全員再雇用するという営業譲渡の方法による打開策が模索された(証拠略)。
(イ)交渉の結果,アイフル株式会社の100%子会社であった控訴人が,旧ハッピークレジットの営業貸付債権全部と営業承継に必要な固定資産等を譲り受けることとなり,従業員も全員同条件で再雇用することなどを骨子とする本件営業譲渡契約が締結された(証拠略)。
(ウ)本件営業譲渡後も,旧ハッピークレジットから控訴人に四日市駅前店の店舗や従業員はそのまま引き継がれ,控訴人が旧ハッピークレジットの商号を続用して,貸金業の営業を継続した。
控訴人は,本件営業譲渡後,旧ハッピークレジットの顧客と契約書の書換えをすることとし,「契約書/書換え手続のご案内」として,旧ハッピークレジットから営業債権の譲渡を受け新たにスタートすることになったこと,控訴人が貸主としてこれまでの取引を継続するが,契約変更に伴い上限利率を29.20パーセントに引き下げること,今回契約書の書換えの手続をするため,来店を依頼する旨の案内や貼り紙をした(証拠略)。
(エ)控訴人及び旧ハッピークレジットは,被控訴人に対し,平成12年6月8日付の債権譲渡・譲受通知書(証拠略)を交付し,同通知書には,旧ハッピークレジットの被控訴人に対する貸付債権を同月1日,契約上の地位とともに控訴人が譲り受けたので,譲渡人旧ハッピークレジットに対する支払は弁済の効力を生じない旨,譲受時点での旧ハッピークレジットの被控訴人に対する貸付債権の残元本は19万1934円,利息7273円,遅延損害金410円と記載されていた。
これに対し,被控訴人は,同通知書に事前に印刷されている,上記の債権譲渡及び契約上の地位の移転について異議なく承諾する旨の文言の下の債務者欄の住所,氏名欄に住所,氏名を自署した(証拠略)。
控訴人は,本件営業譲渡後も,上記通知書記載の元本,利息及び遅延損害金の額を前提として,被控訴人から平成15年11月28日に至るまで弁済を受領し続けた。
(オ)しかしながら,上記債権譲渡・譲受通知書(証拠略)に記載された貸付債権の元本,利息及び遅延損害金の額は,旧ハッピークレジットにおける利息制限法所定の制限利率を超える約定利息・遅延損害金を前提に計算されたものであり,後記のとおり,過払い金返還債務の利息の利率を年5分として計算すると,別紙3のとおり,平成12年6月6日時点で利息制限法の制限利率に従い,元本充当計算をすると,旧ハッピークレジットの被控訴人に対する貸付元本は完済され,27万円を超える過払い金が生じていた。
被控訴人は,控訴人から,そのような過払いの事情を一切知らされることなく,また,その後,控訴人から新たな金銭借入れを行なうなど,消費者金融の利便を何ら受けていないのに,控訴人から請求を受けたため,平成12年6月6日から平成15年11月28日まで17回に亘り合計12万3000円を控訴人に支払った。
しかし,被控訴人は,これ以上の控訴人からの利息制限法に反する不当な支払い請求を免れ,債務不存在確認と過払い金の返還を請求するため,弁護士に相談して,取引履歴の開示を求めたが,控訴人が応じなかったので,代理人弁護士を選任して本訴を提起するに至った。
(カ)本件営業譲渡後,控訴人が,顧客との間で,旧ハッピークレジットの取引も通算して過払い金を支払う内容の訴訟外和解をした事例も複数存在する(証拠略)。
ウ以上を踏まえ検討する。
(ア)上記認定のとおり,本件営業譲渡では,店舗や従業員も含めて旧ハッピークレジットの営業が控訴人に譲り渡されたため,その前後を通じ,営業の外形は被控訴人を含む顧客にとって特段の変化はなかったと考えられる。
そして上記(2)イ(ウ)の案内や貼り紙,さらに同(エ)の債権譲渡・譲渡通知書をみても,旧ハッピークレジットとの間の取引に関連する債務等の帰趨について何ら言及はされていないから,被控訴人を含む顧客としては,旧ハッピークレジットとの間の金銭消費貸借契約が控訴人に移転した以上,旧ハッピークレジットとの間の取引に関連する事項は,全般的に控訴人に移転すると考えるのが通常であると解される。
なお旧ハッピークレジットは破産しているから,旧ハッピークレジットに対し過払い金返還請求請求権を有する債権者は保護されない状況にある。
(イ)一方,第3の3(2)イ(オ)のとおり,被控訴人と旧ハッピークレジットとの間の取引では,本件営業譲渡の時点において過払い金返還債務が発生していたのであるから,被控訴人に対する貸付債権は既に消滅して存在しなかったものである。
そして,控訴人は,自らが消費者金融大手のアイフルの100%子会社であることや,旧ハッピークレジットが消費者金融業として利息制限法の制限利率を超える約定利息・遅延損害金のもとで貸付けを行っていたことから本件営業譲渡の時点において,過払い金返還債務が生じている可能性を十分に予想できていたといえる。
それにもかかわらず,控訴人は,本件営業譲渡後も,被控訴人に対し新たな貸付けを行った事実もないのに,旧ハッピークレジットにおける利息制限法所定の利率を超える約定利息・遅延損害金をもとに計算した元本利息及び遅延損害金の額を前提として,被控訴人から平成15年11月28日に至るまで利息ないし遅延利息名下に合計12万3000円の弁済を受領し続け,さらに,被控訴人が過払い金の返還を求めて本訴を提起した後も,旧ハッピークレジットから承継した顧客データや取引履歴などを,被控訴人の要求にも拘わらず,直ちに開示することはなく,本
件営業譲渡後に支払を受けた上記12万3000円を任意に返還する意向を示すだけであった。
(カ)このような控訴人の対応は,旧ハッピークレジットにおける取引と控訴人における取引の一連性,継続性を前提とした上で,控訴人としても旧ハッピークレジットから引き続いて,被控訴人が利息制限法の制限利率を上回る約定利息・遅延損害金を弁済していたことに伴う利益を享受していたものといえる。
それに対して,被控訴人が,利息制限法に従い元本充当計算をして,過払い金を確定した上,円滑な債務整理を早期に行いたいと希望するのは,消費者金融の顧客として法律上認められた当然
の権利行使といえる。
ところが,上記のような本件事実関係のもとで,控訴人において,被控訴人から過払い金返還請求を受けた途端,旧ハッピークレジットの過払い金返還債務については本件免責登記をもって免責される旨主張することは,本件営業譲渡にあたり,金融再生委員会等が営業譲渡の授受当事者に示唆していたと思われる顧客の混乱の回避の趣旨にも反するものであって,民法1条2項が定める信義に反する権利の行使といわざるを得ない。
また,証拠(略)によると,控訴人は,他事例では旧ハッピークレジットの取引も通算して過払い金を支払う内容の和解もしているところ,かかる行為からは,控訴人が旧ハッピークレジットの過払い金債務を承継したことを自認している態度を看取することができる。
(エ)これらの諸事情からすれば,控訴人が,商法26条2項に基づき,本件免責登記を根拠に,同法1項の適用を排して過払い金返還債務を免れる旨主張することは,民法1条2項の信義則に反して許されないものというべきである。
エこれに対し,控訴人は,以下のとおり,控訴人が被控訴人に対し本件免責登記による免責の効果を主張することは信義則に反しない旨主張するので順次,検討する。
(ア)リスク負担について
控訴人は,幸福銀行グループの破綻処理の一環として,旧ハッピークレジットの営業資産を譲渡する方針が採られたことから,その要請に応じて同社の資産を譲り受けたものであり,同社と従前から取引関係にあってその破綻リスクを甘受することもやむを得ない被控訴人とは根本的に立場が異なるばかりか,既に適切に評価された譲渡代金を支払っているから,さらに過払い金返還債務までを負うこととなれば,二重の金銭負担を強いられることになり,控訴人の負担の下で被控訴人のみが旧ハッピークレジットの他の債権者から抜け駆け的に債権回収を図る結果となり,不公平であると主張する。
しかし,控訴人は,消費者金融大手のアイフル株式会社の100%子会社として,旧ハッピークレジットと同じく消費者金融業を永年営んでいることからして,顧客から受領してきた利息制限法に違反する制限超過利息については,同法に基づき元本充当計算をした結果,過払い金があれば顧客には法律上返還を求める権利があることを,本件営業譲渡に際し当然に認識していたものである。
そして,控訴人は,本件営業譲渡に際し,旧ハッピークレジットから商号の譲渡も受けて同社の商号を利用し,同社の従前の顧客に対する営業貸付債権の譲渡を受けて消費者金融業を承継したもので,顧客との間では,従前どおり,利息制限法に違反する制限超過利息の支払を受けることを当然の前提として営業を行っていたものである。
以上の事実のほかに,本件において認められる控訴人と被控訴人のそれぞれの経済的能力や情報量の差異等を考慮すると,本件営業譲渡が幸福銀行グループの破綻処理の一環であることを考慮しても,控訴人が主張するリスク負担は,顧客である被控訴人ではなく,控訴人において行うべきであると考えられる。
したがって,控訴人が,旧ハッピークレジットから譲渡を受けた被控訴人に対する営業貸付債権について,被控訴人が従前旧ハッピークレジットに支払っていた利息制限法の制限超過利息についての同法に基づく過払い金返還債務のみを引き受けないとすることは,消費者金融業を巡る取引における信義則に反すると言わざるをえないから,控訴人の上記主張は採用できない。
(イ)被控訴人による権利行使の機会喪失について
控訴人は[1]旧ハッピークレジットから既発生の過払い金返還債務を含めた一切の契約関係を引き継ぐように振る舞ったことはなく,[2]そもそも本件営業譲渡に当たり,被控訴人に対する過払い金返還債務が現に発生しているか否かの認識はなく,関知もしていかったし,控訴人が被控訴人に対し,旧ハッピークレジットの破産の事実を秘したことはない上,被控訴人に対してかかる破産の事実について告げるべき法的義務も道義的義務もないと主張する。
しかし,前記のとおり,本件営業譲渡の前後の状況からすれば,被控訴人を含む顧客は,旧ハッピークレジットとの間の取引に関連する事項は全般的に控訴人に移転するものと考えるのが通常であり,控訴人としても,貸付債権のみを承継するということを積極的に知らせてはいないのであるから,上記[1]の点は前記判断を左右するものではない。
また,上記[2]の点についても,控訴人として過払い金返還債務が生じている可能性を十分予想できていたのに,控訴人が本件営業譲渡の際に,被控訴人ら旧ハッピークレジットの顧客に示した案内や貼り紙(証拠略)には,同社が顧客に対し負っている利息制限法に基づく過払い金返還債務について控訴人は承継しない旨の説明やそれに対して顧客が行うべき権利保全の対策等の説明は一切記載されていないことに照らすと,同様に前記判断を左右しない。
次に,控訴人は,被控訴人が,旧ハッピークレジットから控訴人への債権譲渡等の説明も受けた上で,債権譲渡の事実を異議なく承諾しているにもかかわらず,かかる事実を一切無視した訴訟活動を行っているから,被控訴人が行う信義則違反の主張こそ禁反言の法理に反すると主張する。
確かに,前示のとおり,被控訴人は,平成12年6月8日付の債権譲渡・譲受通知書(証拠略)の,債権譲渡及び契約上の地位の移転につき異議なく承諾する旨の印字された文言下の債務者欄に住所,氏名を自署している。
しかし,上記認定事実及び弁論の全趣旨によると,被控訴人は,平成12年6月当時,利息制限法に基づく元本充当計算の結果を知らずに,控訴人担当者から求められるままに同書面に自署したものと認められるから,上記自署の事実により前記認定は左右されず,控訴人の主張は採用できない。
(ウ)控訴人は,本件営業譲渡は相当の対価をもってなされており,本件営業譲渡は詐害行為的ではないと主張する。
しかし,上記認定事実によると,控訴人は,本件営業譲渡において,旧ハッピークレジットの顧客に対する債務を承継しないことにより,同社が受け取った本件営業譲渡の対価は,金融機関に対する弁済にのみ充てられて,被控訴人のような消費者金融の顧客の利息制限法に基づく過払い金返還請求権については殆ど弁済を受けられなくなることを十分に認識していたものと認められる。
そうだとすると,本件営業譲渡が詐害行為といえなくとも,このような,顧客の利息制限法に基づく制限超過利息の返還請求が妨げられることを認容した上で,控訴人が本件免責登記による免責の効果を主張することは,消費者金融大手のアイフル株式会社の100%子会社で,旧ハッピークレジットと同程度の規模で消費者金融を営む業者としての経営活動における信義則に反すると言わざるを得ないから,控訴人の上記主張は採用できない。
(エ)他事例における和解による解決について
控訴人は,他事例における解決は本件における信義則違反の有無を判断するに当たり何らの意味も有しないと主張する。
しかし,他事例における解決方法は,控訴人の一般的な態度を示すものであるから,本件においても信義則を判断する事情として考慮される。
(オ)その他,信義則違反の点に関する控訴人の反論は,上記ウの説示に照らし,いずれも採用できない。
(3)以上の次第で,控訴人は,本件免責登記によっても,被控訴人に対し,本件営業譲渡により旧ハッピークレジットの過払い金返還債務を承継しなかったことを対抗できず,同債務を支払う義務を負う。
4 争点(1)エ(過払い金返還債務の利息の利率)について
(1)旧ハッピークレジット及び控訴人の悪意ア平成12年6月8日付の債権譲渡・譲受通知書,会員カード及び弁論の全趣旨によると,旧ハッピークレジット及び旧ハッピークレジットから営業譲渡を受けた控訴人は,被控訴人との間の取引における約定利息,遅延損害金が利息制限法所定の制限利率を超えるものであることを当然に認識していたものと認められる。
そして,旧ハッピークレジット及び控訴人のような貸金業者は,顧客から利息制限法所定の利率を上回る約定利率による弁済金を受領する場合,例外的に貸金業法43条1項のみなし弁済規定の適用を受けるのでなければ,利息制限法所定の利率を上回る利息,遅延損害金の約定が無効とされ,その弁済金は同法所定の利率に引き直して計算された利息及び遅延損害金並びに元金に充当されて,いずれ計算上貸付債権が消滅して法律上の原因を欠く利得が発生することを認識,認容しつつ,これを受領しているといえる。
かかる状況のもとでは,旧ハッピークレジット及び控訴人において,みなし弁済規定の適用があることや,同規定の適用があると信じて然るべき事情があることについての主張立証がない限り,弁済金を利息制限法所定の利率に引き直して計算した結果,顧客に対する過払い金が発生した時点でその弁済金の受領が法律上の原因を欠くものであることにつき悪意であったというべきである。
そして,本件では,みなし弁済規定の適用に関する主張立証はないから,旧ハッピークレジット及び控訴人は悪意の受益者であるといえる。
イこれに対し,控訴人は,悪意の受益者といえるためには,問題とされる金銭消費貸借契約の借入残高がゼロになっていることを貸金業者が認識していることが必要であり,本件営業譲渡では,控訴人には旧ハッピークレジットの過払い金返還債務につき調査する必要も義務もなく,被控訴人との金銭消費貸借契約の借入残高がゼロになっていることを認識していなかったから悪意ではないなどと主張している。
しかし,貸金業法43条のみなし弁済規定の適用を受けない限り,取引が積み重なって,借主が約定の返済を続ければ,利息制限法の適用によりいずれは過払になることが十分予想されるところであるから,計算の結果いつ借入残高がゼロになるかまで認識していなくとも,現に過払となった当初より悪意の受益者になると解される。
そして,貸金業者からの営業譲受人である同じく貸金業者である控訴人においても,譲り受けた営業貸付債権が利息制限法の適用により既に存在しない可能性があることは十分予想されるところであるから,現に貸付債権が存在していなければ,営業譲渡を受けて,さらに弁済を受領した当初より悪意の受益者になると解される。
したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
(2)過払い金返還債務の利息の利率
被控訴人は,控訴人の被控訴人に対する過払い金返還義務についての民法704条の利息は商事法定利率である年6分の割合によるべきであると主張する。
しかし,利息制限法所定の制限利率を超えて支払われた利息・損害金についての不当利得返還請求権は,法律の規定によって発生する債権である。
一方,商法514条の適用又は類推適用されるべき債権は商行為によって生じた債権又はこれに準ずるものでなければならないところ,上記不当利得返還請求権をもって商行為によって生じた債権に準ずるものと解することはできない。
したがって,控訴人の被控訴人に対する過払い金返還債務についての利息は民事法定利率である年5分の割合によるべきである。
(3)まとめ
以上を踏まえて,控訴人の被控訴人に対する過払い金返還債務の額を計算すると,別紙3のとおり,過払い金元金が40万0486円,最終取引日である平成15年11月28日から平成18年3月10日までの確定利息が12万7023円となる。
よって,控訴人は,被控訴人に対し,これら合計52万7509円,及び上記過払い金元金40万0486円に対する同月11日から支払済みまで年5分の割合による利息の支払義務を負うことになる。
5 争点(2)(控訴人が旧ハッピークレジットとの間の取引履歴を開示しなかったことで,被控訴人に対し不法行為の損害賠償責任を負うか)について
(1)控訴人の取引履歴の開示義務ア被控訴人は,取引履歴の非開示の事実についても擬制自白の成立を主張しているが,擬制自白に拘束力がないことは前記のとおりである。
もっとも,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人代理人弁護士が,控訴人に対し,平成16年8月19日,同年11月12日,同年12月1日,平成17年5月9日に書面により取引経過の開示を求めたこと,控訴人は,平成6年11月30日以降の取引履歴については,平成16年11月18日付けで開示したが,それ以外の部分については,その後2回にわたる開示請求及び本訴の提起にかかわらず,原判決の言渡しに至るまで開示しなかったこと,控訴審から受任した控訴人代理人弁護士が,平成17年12月19日になって,被控訴人代理人弁護士に対し,平成6年11月29日以前の取引履歴をファクシミリで送信して開示したことがそれぞれ認められる。
イ貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うものと解すべきである(最高裁判所第3小法廷平成17年7月19日判決)。
このことは,貸金業者から営業譲渡を受けて,営業譲渡人の顧客データとともに同社と顧客との間の取引履歴に関する情報を引き継いだ営業譲受人についても,同様に妥当するものと解される。
これを本件についてみるに,控訴人は,前記のとおり旧ハッピークレジットと顧客との間の取引履歴に関する情報を引き継いでいるのであるから信義則上,取引履歴の開示義務を負うと解される。
ところが,控訴人は,被控訴人代理人弁護士が被控訴人の円滑な債務整理をする目的で本件訴訟を遂行するため4回にわたって書面により開示を求めたにもかかわらず,原判決言渡し後の平成17年12月19日になるまで平成6年11月29日以前の取引履歴を開示しなかった。
そのため,被控訴人は,過払い金の確定ができず,早期の円滑な債務整理が阻害されたのであるから,このことは被控訴人の人格権・財産権を違法に侵害するもので民法709条の不法行為に当たる。
ウなお,この点に関し,控訴人は,貸金業者から営業譲渡がなされ,営業譲受人に過払い金返還債務が承継されず,かつ,当該事実を顧客に対抗できる場合は,営業譲受人としては,営業譲渡人と顧客との間の取引履歴を開示すべき義務を負わないと主張する。
しかし,前記第3の3のとおり本件では,控訴人が旧ハッピークレジットの過払い金返還債務を承継しないことを被控訴人に対抗できないから,控訴人の上記主張は前提を欠くもので採用できない。
(2)損害の有無及び額
前記のとおり,控訴人は,平成6年11月30日以降の取引履歴については,被控訴人代理人の書面による請求を2回受け,初回の請求を受けてから約3か月で開示しているものの,それ以外の部分については,その後2回にわたる書面による開示請求,及び本訴の提起にかかわらず,原判決の言渡し後に至るまで開示しなかったこと,控訴人の負うべき過払い金返還債務の元金は原審では約70万円であったのに対し当審では約40万円となるが,これは控訴後に取引履歴を開示した結果であること,その他前記第3の3(2)イ(エ),(オ)の本件営業譲渡後の被控訴人の控訴人に対する弁済状況など,本件に顕れた一切の事情を考慮すると,被控訴人が,控訴人の取引履歴開示義務違反によって被った精神的苦痛を慰謝すべき金額としては10万円が相当である。
また,被控訴人は,上記取引履歴の非開示のため弁護士に依頼して本件訴訟を提起することを余儀なくされたと主張するところ,上記認容された過払い金返還請求額や慰謝料相当額及び代理人としての訴訟活動の内容等を検討すると,控訴人の取引履歴の非開示と相当因果関係のある弁護士費用相当額としては5万円が相当である。
これに対し,控訴人は,すべての取引履歴を開示した以上,損害はないと主張するが,開示の時期は原判決言渡し後であることからして,既に被控訴人に損害は生じているというべきであるから,同主張は採用できない。
(3)以上の次第で,控訴人は,被控訴人に対し,取引履歴の非開示による不法行為に基づく損害賠償として,15万円及びこれに対する不法行為後で訴状送達の翌日である平成17年6月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。